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大阪高等裁判所 昭和55年(ラ)541号 決定 1981年4月27日

抗告人(申請人) 株式会社ナガノ科学機械製作所

相手方(被申請人) 樋口金庫株式会社 外一名

原審 大阪地方昭和五五年(ヨ)第一七九七号(昭和五五年九月一九日決定、一二巻二号五三五頁参照)

主文

本件抗告を棄却する

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告の趣旨および理由

別紙記載のとおり。

二  当裁判所の判断

1  当裁判所も本件A、B号品の形態自体について自他識別力、周知性を肯認するに足る疎明資料が不充分であり、その被保全権利の疎明を欠き、また事案に照らし被保全権利の疎明にかえて保証を立てさせその申請を認容することも相当でないから、本件仮処分申請は却下すべきものと判断するもので、その理由は次に付加するほか原決定理由説示と同一であるからこれを引用する。

2  不正競争防止法一条一項一号にいう「他人の商品たることを示す表示」とは、氏名、商号商標、商品の容器、包装等例示されたものと同様、商品の出所表示の機能を果すものを指すものであり、商品の形態自体も、それが永年継続して排他的にある商品に使用され、あるいはその形態自体が極めて特殊独自なものであるためその形態自体が出所表示の機能を備えるに至つた場合には、右概念に該当するものというべきであるが、単なる新規性、独創性は特許法、実用新案法の保護の対象とはなりえても、不正競争防止法の保護の対象とはならないものである。抗告人主張のユニーク性、独創性の如きは未だ不正競争防止法の保護の対象とはならないし、また昭和五〇年度における展示会等へ出品の事実も、出所表示を肯認しうるに足る強力な宣伝とは解し難い。

3  抗告人主張の如き表示、商標が本件商品に付してあるからといつて、原決定認定の事情のもとにおいては、自他識別力は稀釈化されているものとみるのが相当であり、抗告人の主張は理由がない。

4  抗告人は相手方は商品の形態が抗告人商品のそれと酷似し、それ故に混同も生じていると主張するがこれを疎明するに足る資料はなく、疎甲第三号証を精査検討するに、需要者は抗告人の商品と相手方らの商品につき価格、機能等を比較検討のうえ相手方ら商品セイフテイキヤビネツトを購入したものであることが一応認められ、相手方ら商品の出所主体を誤認したが故に購入したものとは認められない。

5  本件仮処分申請はこれを却下するのが相当であり、これと同旨の原決定は正当で、本件抗告は理由がないので棄却することとし、抗告費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 大野千里 林義一 岩川清)

抗告の趣旨

原決定を取り消す。

相手方らは別紙目録の(イ)および(ロ)記載の物件を販売してはならない。

前項記載の物件に対する相手方らの占有を解き、抗告人の委任する執行官にその保管を命ずる。

との決定を求める。

抗告の理由

一 抗告人商品の形態が不正競争防止法第一条第一項第一号の「商品たることを示す表示」に該当すること

抗告人商品(別紙目録(一)記載商品AB)は債権者の独占的な販売活動、強力な宣伝広告により、遅くとも昭和五一年春ごろには、薬品保管庫として周知、著名な商品となつており、その特異な商品形態は抗告人商品を示す表示として日本国内に広く認識されていた。

1 抗告人商品の形状がユニークであることについては、別紙目録(二)に示す薬品保管庫の競合品の形状からも自明である。

抗告人商品の形状のユニーク性は、財団法人大阪デザインセンターもこれを認めている(疎甲第一号添付資料6)。

財団法人大阪デザインセンターは産業デザイン振興に関する諸事業の推進等を目的とする公の団体であり(疎甲第一〇号証の一)、大阪府知事、大阪市長を名誉顧問、大阪商工会議所会頭を会長にそれぞれ委嘱している。優秀デザイン選定の基準としては第一にデザインの独創性が要求されている(疎甲第一〇号証の二)。抗告人の商品は、右財団法人の厳格な審査をパスし優れたものとし選定されたものであつて抗告人商品の形状の特異性識別性は疑いがない。

2 抗告人は昭和四七年より抗告人商品を販売しているが、相手方商品が市場に出る昭和五一年春に至るまで抗告人商品と同一又は類似の形態の薬品保管庫が販売された事実は見当らず、抗告人商品の市場占拠率は一〇〇%であつた。

3 抗告人の抗告人商品についての強力な宣伝活動については仮処分命令申請書七頁以下に詳述したとおりである。

特に昭和五〇年五月一五日―一八日の大阪での第五回科学機器展及び同年一〇月六日―一〇日の東京での第一五回全日本科学機器展への出品、展示は特筆すべきものである(疎甲第一号証 添付資料4)。

この展示会は、それぞれ大阪科学機器協会、日本科学機器団体連合会の主催する業界の展示会である。大阪科学機器協会は大阪地区の科学機器メーカー、商社二四七社で構成する業界団体であり(疎甲第一一号証)、日本科学機器団体連合会は、大阪科学機器協会と同種の各地区(東京、大阪、京都、東海、九州、北海道、東北)の協会を構成団体とする全国規模(加盟九八一社)の業界団体である(疎甲第一一号証)。この両団体の主催する展示会は、それぞれ原則として年一回ずつ開催される業界最大のイベントである。そして業界のメンバー会社にとつてこの展示会への出品展示は、最大の宣伝広告の機会である。この出品展示は、言わば大衆商品の日刊新聞への掲載広告に勝るとも劣らぬ重要な意味を有するのである。

抗告人商品も従前からの業界誌における宣伝、ダイレクトメールによる宣伝に加え、昭和五〇年春の大阪での展示会、秋の東京での展示会を通し大阪地区はもとより全国規模で、業界の周知性が確立していつたのである。

4 原決定は、島津理化器械株式会社及び和光純薬工業株式会社が抗告人商品を販売したことを以つて、抗告人商品の形態の自他識別力を稀釈化したと認定する。しかしこれは事実に反する。

第一に両社の取扱つた商品は、いずれも抗告人製造にかかるものであり、抽出には抗告人名が記載されている他、取手には抗告人のマークが付せられ、抽出の棚等の部品を入れるビニル袋にはいずれも抗告人の商品であることを示す「ボトル・キヤビネツト」の商標が付いている。それゆえ取引業界にある者には、両社の扱つた商品が抗告人製造のものであることが示されていたのであつて、抗告人商品の形態の自他識別力は何ら稀釈化されていない。すなわち取引業界にあつては、これら両社の扱つた商品についても出所は抗告人であることは自明であつた。

5 原判決はこの種商品は、いわゆる消耗品ではないから需要者は単にその形態を一見しただけで選択購入をするのではなく、形態自体の出所識別力は相対的に低いと思われるとする。しかし、右に述べた1~4の事情によれば、抗告人商品の形態自体の出所識別力は極めて高いものであつて消耗品でないことの一言により出所識別力が否定されることはない。

二 相手方商品との混同

抗告人商品と相手方商品の酷似、またそれゆえの混同、抗告人の受ける損害等については仮処分命令申請書第六項以下に記載のとおりである。

よつて抗告の趣旨記載の裁判を求めるものである。

(別紙目録(一))

ボトル・キヤビネツト(数字の単位はミリメートル)

(A)<省略>

(B)<省略>

(別紙目録(二))競合商品<省略>

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